第42章 【イエジ】
英二くんと不二くんが私のことを思って桃城くんと海堂くんに、私を連れ出すように言ってくれたんだけど、それでも英二くんから離れたくなかった。
ナオちゃん達の側にいるのは怖かったけど、凄く怖くてすぐにでも逃げ出したかったけど、それでもやっと抱きしめてくれた英二くんから離れたくなかった。
怖くて、怖くて、だけどずっとガクガク震える身体を英二くんが力強く抱きしめてくれたから、トクントクン、そう英二くんの脈打つ鼓動が心にしみて、ただそれだけですべてが満たされていくようで……
トクン、トクン____
そう英二くんの鼓動を聞きながら、またその腕にギュッと力を込める。
大好き、英二くん、大好き……
そう心の中で何度も繰り返すと、さっきまでの恐怖とは別の涙が溢れて止まらなくなる。
『一度も好きだと言ってくれなかったけどね……』
ふとナオちゃんが香月くんに呟いた言葉が蘇り、ズキンと胸を締め付ける。
静かに首を横に振り、その胸の痛みをそっと心の奥に閉じ込めた。
気が付いたら不二くん達は誰もいなくなっていた。
私のせいで集団暴行の容疑をかけられそうになったり、私の無実をはらしてくれたりしたのに、お礼も謝罪も言いそびれちゃったな……そう後悔するんだけど、でも今はそんな事より英二くんの腕の中の温もりを確かめていたかった。
「……小宮山」
私の髪を優しく撫でてくれていたその愛しい手が止まり、大好きな心地よいベイビーヴォイスが耳元でそっと私の名前を囁く。
「今まで、本当にごめんな……?」
そう申しわけなさそうに謝ってくれる英二くんに、さっき謝ってもらいましたし、それに英二くんは何も悪くないですよ……?、そう言って笑顔を向けると、英二くんの腕にまた力が込められた。