第41章 【エガオノオク】
そのときの英二は自分でもどうすることも出来ない不安定な気持ちから生まれる苛立ちを、まるで小宮山さんにぶつけているかのようだった。
英二の心の苦しみは理解していたけれど、さすがにその時はあまりにも酷いその言いように、自分の心の底からわき起こる怒りを抑えきれず、感情を露わにしてしまった。
だけど小宮山さんはそんな時ですら、ただひたすら英二を庇い、ただひたすら英二を慕い、ただひたすら英二の為に涙をこらえ、必死に笑顔を作ろうとしていた。
それからは、そんな小宮山さんの気丈さと弱さに、自分をおさえられないことが幾度もあったな……
英二のことを想って涙する小宮山さんに胸を貸しながら、その髪や頬に触れながら、手の温もりを確かめながら……
「僕ならキミを泣かせたりしないよ」
何度その言葉を飲み込んだだろうか____
「いやー、しかし驚いたっす!あの英二先輩があんな風に怒るなんて……」
興奮状態の桃が鼻息を荒くして張りあげた声で我に返る。
大石とタカさんに見送られ乗った飛行機の中で、英二と小宮山さんとの今までのことを思い出し、すっかり自分の世界に入り込んでしまった自分に苦笑いする。
マジで不二先輩の彼女だと思い込んでいたんで、そう言う桃に笑顔を向けると、僕も小宮山さんも、付き合ってるなんて一言も言って無いよ?そう言ってクスッと笑う。
「だって、あの写真は恋人同士にしか見えないじゃないっすか!それに放課後デートしたり……」
「それは英二のことで小宮山さんを慰めていただけだよ」
そう、慰めていただけ……
いつだって小宮山さんに触れるときは、彼女を慰めるときだった。
「だったらなんで否定しなかったんすか!?」
「馬鹿かテメェは、じゃあなんで抱き合ってたんだって話になんだろ」
海堂の「馬鹿」の言葉に一瞬怒りを露わにした桃だけど、ああ、そうか、そうすぐに納得して大きく頷いていた。