第41章 【エガオノオク】
学校では何も変わらない笑顔や口調の、今までと同じ明るいムードメーカーの英二のままだったから、一般の生徒たちは誰もそれに気がつかなかったけど、その笑顔は明らかに影を潜めていた。
柄の良くない連中が出入りする店に入り浸り、不特定多数の女性と身体を重ねるようになり、女性を蔑み自分をあざ笑っていた。
僕らはそんな英二の変化を敏感に感じていたけれど、だからと言ってそれを責める人なんて誰もいなかった。
僕も大石も、あの手塚ですらも、あんな形でテニスを奪われた英二の苦しみを思い、もしそれが自分だったらと想像すると胸が張り裂けそうで……
ともに笑い、涙し、汗を流した仲間なのに……、いや仲間だからこそ、英二を責められるはずがなかった。
英二が遊んでいた女の子達は同じ価値観を持った子達だったから、僕も手塚もその英二の行為に目をつぶり、いつも見て見ぬ振りをした。
最初は心配して何とかしようと、何度も説得を試みた大石も、その度に英二の根の深い心の傷を目の当たりにして、結局、何も言えなくなっていった。
もちろん、行き過ぎた行為を目撃したときは、手塚や大石が諫めたりしていたけれど、それも2人の性格を思えば、本当に最低限の忠告だった。
高等部に進学して、英二がテニス部に入らないことにみんなが驚き、その真意を確かめようと僕や仲間達に散々探りを入れてきたけれど、僕たちは当然だけど誰も口を割らなかった。
英二の事を思うと、とても人になんか言えるはずなかったし、決して話してよい内容でもなかった。
ドイツに渡った手塚、他校に進学した大石、寿司屋の修行に励むためテニスをやめたタカさんに続き、英二まであんなことになり、僕たちの代の青春学園高等部テニス部は、僕と乾の2人だけになった。
英二のいないテニスコートは火が消えたようで、もちろん、真面目に部活に励んだし、上を目指して一生懸命だったけど、やっぱり英二の抜けた穴は大きくて、どれだけ英二の存在が大きかったかを改めて思い知らされた。