第41章 【エガオノオク】
「あんなにあがいて、もがき苦しんでも、ラケットを握れなかった英二が……」
「ああ、不二が言っていた英二を救えるかもしれない人って、小宮山さんのことだったんだね」
そうみんなが口にしては、それぞれが英二への思いをそっとその胸に抱く。
無我夢中で大石からラケットを奪った英二に、とっさにポケットの中のボールを放り投げた。
それを受け取った英二がトスを上げてサーブを放つ。
そしてネットダッシュのように小宮山さんに向かって駆け寄り、必死に抱きしめたその一連の流れが、まるでスローモーションのように目の前を流れていった。
……やっぱりすごいな、小宮山さんは……
中3の冬、突然テニスコートに現れたあの女は、英二にむかってヒステリックに怒鳴り散らした。
そのうちその場に落ちていたラケットを拾い上げると、薄ら笑いを浮かべながらゆっくりと振り上げて、それから英二にむかって勢いよく振り下ろした。
英二に対して何度もラケットを振り下ろすその女と、抵抗もせずただその場にうずくまり、ひたすら謝り続ける英二のその異様さに、その場にいた全員が息を飲んだ。
我に返ってみんなでその女を取り押さえ、急いで英二のもとに駆け寄ると、英二はその震える身体を抱えながら呆然としていて、何度もその名前を呼んだけど、僕たちの声は全く聞こえてないようだった。
正直、あの時の衝撃はいまだに忘れることが出来ない……
それ以来、英二はラケットを握れなくなった。
震える手で何度も挑戦していたけれど、そのたびに発作を起こして苦しそうにうずくまった。
コートにも近づけなくて、とうとうボールにも触れなくなった。
そして英二はテニスをあきらめた。
それ以来、英二は日に日に荒れていって、情緒不安定になっていった。
テニスを奪われた怒りと悲しみをぶつける先を求めて、夜の繁華街へと出かけるようになった。
そして気がついたときには、英二は今の英二になっていた____