第41章 【エガオノオク】
香月くんが通路をでると、みんなに目配せをしてその後に続く。
ドアを閉める際にその隙間から見た2人は、みんなが出て行くことにも全然気づかずに、ひたすらお互いを思って抱き合っていた。
そんな2人の様子を嬉しく思うと同時に、英二に抱きしめられて幸せの涙を流す小宮山さんに、言いようのない切なさを感じて胸を痛める。
そっといつもの笑顔にそれを隠して、ドアを静かに閉じると、なんでもない顔をしてみんなの方を振り返った。
「香月くん、ちょっといいかな?」
ロビーでオロオロして待っていた大石と話をする香月くんの元に歩み寄ると、小宮山さんのことなんだけど……そう話しかける。
「小宮山さんはあんな風に言ったけど、やっぱり濡れ衣だけは晴らして欲しいんだ。それが将来、彼女のどんな足かせになるか分からないからね……」
そう香月くんに頼むと、ああ、分かっているよ、そう彼はしっかりと頷いた。
「乾、彼にさっきのボイスレコーダーを貸してやってくれない?どうせ予備を何個も持ってるんだろ?」
そう言って乾にボイスレコーダーを出して貰うと、これを使うのは最終手段で構わないんだ、そう言って香月くんに手渡す。
「僕たちには彼女の立場がどうなろうと関係ないけれど、キミにとっては複雑な思いもあるだろう……?」
そう言って笑顔を向けると、香月くんは、ああ、すまないね、そう寂しそうな笑顔を作った。
「小宮山さんが今、青学に通っていることは、絶対秘密にすると約束するよ」
「そうしてもらえると助かるよ、彼女も安心するんじゃないかな?」
そう強い意志を感じさせる目で約束してくれた香月くんが帰ると、英二が思わず放り出したラケットを大石に差し出しながら、お願いがあるんだ、そう言って笑顔を向ける。
「このラケット、借りてもいいかな?インターハイで使いたいんだ」
英二の思いと一緒に戦いたいんだ、そうギュッとグリップを握る手に力を込めると、みんながそのラケットに視線を向けた。