第39章 【セフレトモトカレ】
「英二!人気のない場所を探すんだ!」
ハッとして走り出したオレにすぐに追いついてきた不二にそう言われ、分かってる!なんて叫びながら必死にない脳みそをフル稼働させる。
人気のない場所、人気のない場所……そう辺りを見回しながら小宮山の姿を探して、ふと気がついた、通路の脇に落ちている見覚えのあるハンカチ。
これ、あの体育館裏で一緒に弁当食ったとき、小宮山がお茶のパックの汗を拭いてくれた……
拾い上げて顔を上げた先には非常口へと続くドア。
不二!こっち!そう声をあげてみんなに知らせると、そっとドアを空けて中を覗き見る。
そこでみたのは、通路の奥で震えてすっかり怯えきっている小宮山の姿と、その周りを取り囲みクスクスと笑う女たち。
そしてその中心にいて一段と歪んだ笑みを見せる女の手には、銀色に輝くハサミ。
今にもそのハサミで小宮山の髪を切ろうと手を伸ばしていた。
普通に走ったんじゃ間に合わないその距離に、焦る心臓をおさえて辺りを見回すと、目に留まったのは大石が持っているラケット。
「大石!ボール打って!」
「な、何、言ってんだ?こんな所で打てるはずないじゃないか!」
「いいから早くっ!小宮山の髪、切られちゃうじゃんか!」
オレの突拍子もないその頼みの意図を大石は理解できなくて、だいたい、人に向かってボールを打つなんてこと、大石がやるはずもなくて、でもちゃんと説明している時間なんかなくて……
「あー、もういいよ、オレがやるからっ!」
そう叫んで大石の手からラケットを奪い取ると、英二!そう声をかける不二が投げたボールを受け取って、あとは無我夢中でトスを上げる。
もともと、大石ほど正確なショットが打てる訳じゃない……
しかもテニスをやめてからもう一年半以上経過している……
頼むから、小宮山にだけは当たんないでよね!そう祈りながら思い切りサーブを打ち込んだ。