第38章 【サイカイノトキ】
銀色に光るハサミ、その金属音、クスクスと耳元で響く笑い声……
その瞬間、あの時の床にバサッと落ちた自分の髪の毛の束の光景が蘇る。
やだ……やめて……やっと伸びたのに……
お願いだから……やめて……
そう声にならない声で首を横に振りながら、思わず一歩、また一歩と後ずさりをする。
助けて……誰か……
助けて……お願い……
お願い……英二くん……
そう思わず愛しい人に助けを求めて、英二くん?そう自分に嘲笑う。
来るはずないじゃない、あの時だってそうだった……
連絡がなくなって何ヶ月もたつのに香月くんに助けを求めて……
そして結局、ボロボロの私を見てみぬ振りされて……
英二くんなんて尚更……
こんな青春台とは離れた場所の空港に、英二くんがいるはずないし、例え彼がここにいたとしても、私なんかを助けてくれるはずない……
あんなに嫌われているんだから……
振り払われた手、押された背中、押し戻された肩……
眉間に寄せられたシワ、されなくなった朝の挨拶、鳴らなくなった携帯電話……
それから、小宮山の髪、好き、と呟いてくれたあの日の放課後、幾度となく撫でてくれた優しい手付き……
私にむけられなくなった笑顔、触れてくれなくなった手、そしてそれらを手に入れて、嬉しそうに微笑む鳴海さん……
恐怖と絶望、それから自嘲と悲嘆、そして嫉妬……
次々と押し寄せる色々な感情に、私の目からは涙がこぼれ落ちた。