第38章 【サイカイノトキ】
「……いい加減にしなさいよ?」
私のはっきりしない受け答えは、尚更、ナオちゃんを怒らせてしまったようで、そういっそう低い声で彼女は呟いた。
「予定変更、今すぐ移動するよ!香月くんには行けなくなったって連絡すればいいから!」
そのナオちゃんの掛け声でみんな一斉に、了解ー、そう言って移動し始める。
どこがいいかな?カメラないとこ探さないとね、そう楽しそうに話す声にもう何も感じられなくなっていく。
アア、マタ、ハジマルンダ……
マタ、アノジゴクガ、モドッテクルンダ……
まるで自分の心ではないような感覚のまま、引きずられるように連れて行かれたのは、非常口へと続く人気のない通路。
「ここならゆっくり楽しめそうね?」
押し込まれるようにくぐったドアの先で、ナオちゃんがそうニヤリと笑う。
旅行客やビジネスマン、日本人に外国人、沢山の人達でざわめいているロビーとは正反対に、シンと静まりかえっているこの場所は、ナオちゃんの言葉通り、人なんか滅多に来なそうで……
諦めと絶望の中、恐怖に震える私に、相変わらずイライラする女ね、そう言ってナオちゃんは私の肩をドンっと押したから、後ろによろめいて倒れ込む。
「本当にイライラするのよ、あんた!」
恐怖でナオちゃんの顔なんか見れなくて、顔にかかった髪を耳にかけて俯くと、その髪も相変わらずムカつくのよ!、そう言って彼女は私の髪をグイッと引っ張りあげる。
痛い、怖い、やめて、早く解放して……
そう必死に心の中で祈る私に、ナオー、私、コレ、持ってるよ?そう誰かの意地悪く笑う声が聞こえ、思わず視線をむけた先で見たものに愕然とする。
その子は、手に持ったハサミをチョキチョキと動かしていて、それを見たナオちゃんは、一層歪んだ笑みを浮かべた。