第38章 【サイカイノトキ】
「だからダメだよ、逃がすはずないでしょ?」
私の抵抗なんて無駄な努力で、結局、彼女達から逃げ出せるはずはなくて、それどころか今度は余計にきつく掴まれ、ギュッと指が腕に食い込んでくる。
「香月くん、夏休みにニューヨークに短期留学してね、私達、それを迎えに来たの」
会いたい?香月くんに、そう言ってまた私の顔を覗き込むナオちゃんに、慌てて首を横に振る。
会いたくない、ナオちゃん達だけじゃなく、香月くんにまでなんて、もう二度と……
またあの最後の香月くんの目を思い出してブルッと身体が震えてくる。
「そんなに会いたいなら、会わせてあげようかな?面白そうだし♪」
一緒にここで待ってる?そうナオちゃんはクスクス笑う。
会いたくないって言ってるのに、会いたいって言ったら会わずに済むのかな……
恐怖で冷静に考えられない頭では、もう何をどうしたらいいのか分からない。
「ところで、璃音はどうして空港に?」
そう笑顔で問いかけられた質問に、グッと唇を結んでそれを無視する。
ダメ、これから一週間、私1人だってことは絶対バレたらダメ……!!
もしバレたら、家にまで押しかけられるかもしれない、そう必死に何か別の言い訳を考えるんだけど、気の利いた答えが私に思いつくはずもなくて、ただ黙ってその質問をやり過ごす。
「何とか言いなさいよ!」
パンッ!!
頬に衝撃が走りじんわりと痛みが広がってくる。
目を見開いて顔を上げると、私の頬を誰かが叩いたようで、ダメよ、見えるところやっちゃ、そうナオちゃんがジンジンと痛むその頬を撫でる。
で、どうしてここにいるの?そうもう一度聞いてくるナオちゃんに、痛みと頬に触れるその手の恐怖に耐えながら、別に……そうなんとか声を振り絞って答えると、その瞬間、ナオちゃんは目元をピクッと引きつらせた。