第38章 【サイカイノトキ】
「本当に気をつけるのよ……?」
次の日、空港で見送る私に、お母さんは不安そうな顔でそう何度も念を押した。
今日から母は、一週間の予定でイギリスの父の元に向かう。
私が一緒に行けばもっとゆっくりするつもりだったから、私のわがままでせっかく夫婦で過ごせる時間を短縮させてしまい、改めて申し訳なく思う。
ちゃんと食べなさいよ……そう心配そうな顔をするお母さんに、小さい子供じゃないんだから、本当に大丈夫だよ、そう笑顔をむける。
「お母さんこそ気をつけてね、お父さんによろしく」
搭乗口へとむかうお母さんに笑顔で手を振って、離陸まで読書で時間を潰し、飛行機が無事に飛び立つのを確認してから空港のロビーにもう一度差し掛かる。
不二くんはもう新幹線の中かな……?
ロビーの時計を確認してふと不二くんのことを思い出す。
今日は不二くんも地方で開催されるインターハイにむかうため、東京から離れることになっていた。
テニス部の人たちや、きっと多くの見送りの生徒たちが集まっているだろうし、第一、お母さんの見送りがあったから、朝、メールで最後の挨拶をすませたけど……
きっと英二くんも不二くんの見送りに行っているんだろうな……
ふとそんなことを思ってふーっとため息をついた。
「……ね、あれ、璃音じゃない?」
「え……マジ?」
ふと後ろから聞こえた、聞き覚えのある声にピクッと身体を固まらせる。
……まさか……この声……
違う……そんなはずない……
こんな所で、そんな偶然なんかあるはずない……
お願いだから違うって言って……そう切望にも似た思いで恐る恐る振り返る。
そこに見た光景に心臓がバクバクと激しく動き出し、身体中がガクガクと震えて息ができなくなる。
「やだー、本当に璃音じゃない、凄い偶然~!」
久しぶりね、すごく心配してたのよ……?そう嘲笑う歪んだ笑顔に心臓が破裂しそうになる。
……ナオちゃん……
そこにいたのは、かつての私の友人達と、その中心で笑う水島ナオちゃんだった。