第37章 【サイゴノオモイデ】
「1人で帰れ……ないか、流石にもう終電の時間だし」
気まずいけど、こんな時間にここから1人で帰す訳にいかないよな……
芽衣子ちゃんが身支度を整え終わると立ち上がり、ちょっと待ってて、むこうに声掛けてくるから、そうホールを指差して部屋を出る。
カウンターに鍵を返して、ほんじゃ、また来んねー、そうホールにいるみんなに挨拶をして、芽衣子ちゃんと非常口から外に出る。
青春台に戻ってくるまでの長い時間、なんもしゃべる気になんなくて、そもそも何を話していいのかもわかんなくて、ずっと無言のまま2人並んでいた。
「それでは……ありがとうございました……」
「ん、じゃね」
芽衣子ちゃんと気まずいまま別れると、もう終電もないし、タクシーなんて当然乗る金もないから、自宅までのそこそこの距離を歩いて帰る。
こんなんが最後の思い出で、芽衣子ちゃん本当に良かったんかな……なんて後味の悪い思いで歩みを進める。
芽衣子ちゃんが望んだんだから、オレが気にする必要ないじゃん……?
ボランティアだって、そう思って嘲笑い、それから足元に視線を落とす。
ちょっと前のオレだったら、そんな風に思って気にしなかったのにな……
星空を眺めため息を落とすと、ふと小宮山の顔を思い出し、あいつ、今頃、何やってんだろ……?なんて思って携帯を取り出す。
アドレスから呼び出した小宮山の名前。
思わず通話をタップしそうになり、次の瞬間、頭に響いた「ごめんなさい……」にチッと舌打ちをする。
『英二が悪いのよっ!、全部英二のせい!もう本当、私の前から消えてよっ!』
『ごめん、ごめんって、お願いだから許してっ!』
その瞬間、ドクンと心臓が大きく脈を打ち、細胞がざわめくような感覚に不安と恐怖が押し寄せる。
慌てて背中のバッグに手を伸ばすと、震える手でネコ丸のタオルを取り出し顔を埋める。
大丈夫だって、もうあの女とは何も関係ないんだからさ……
くだんないこと、いつまでも引きずってんじゃねーよ……
ゆっくり深呼吸しながらそう何度も自分に言い聞かせた。