第37章 【サイゴノオモイデ】
ガシャン!!
うっかり持っていたグラスを落とし、深夜の部屋に大きな音が鳴り響く。
やっちゃった……そう慌ててグラスの破片を拾い集めると、大丈夫……?そうお母さんが顔を覗かせる。
「ごめんなさい、起こしちゃったね……」
破片、気をつけてね、そう心配そうな顔をするお母さんから雑巾を受け取ると、苦笑いしながらサッと床にこぼれたアイスティーを拭いて、掃除機で後始末をする。
だけどなんだろ、さっきの感覚……なんか胸騒ぎがする……
突然、胸を襲った言いようのない胸騒ぎ。
思わず落として割れたグラスに不安感を募らせる。
慌てて携帯を確認して、急いで呼び出した英二くんの名前。
それから、呼び出してどうするって言うの……?そう自分に嘲笑う。
私から連絡できるはずないじゃない……
セフレの時だって、同じ委員会だったときだって、英二くんに私から連絡することなんて、いつだって許されなかった。
それどころか声をかけるのも……ううん、目を合わせるのですら拒まれているというのに、今更、こんな根拠のない胸騒ぎくらいで、なに連絡しようとしているの……?
本当、何やってるんだろ……なんて窓辺から空を眺める。
すっかり癖になっちゃったな……
英二くんのことを思うとき、ついつい空を眺めるようになったのは、明らかに彼の影響……
あの寂しそうな目を思い出して、また胸が締め付けられる。
英二くん、今頃、何しているのかな……?
鳴海さんと一緒なのかな……なんて思ってまた涙がポロリと頬を伝った。
ふーっとため息をつくと涙を拭い、立ち上がるとリビングへとむかう。
ガラスの破片を片づけて、かわりのグラスを用意すると、戸棚から紅茶の葉を取り出してアイスティーをもう一度いれなおす。
いつもの窓辺に座ると英二くんの声が聞こえた気がして、また夜の星空を眺める。
そんなはずないのにね……そう自分に苦笑いしてため息を落とした。