第36章 【セイフクデート】
「それ、小宮山さんにつけてもらったんじゃないの?」
へ?って思って不二をみると、不二はオレが握りしめている小宮山が付けた胸のボタンをみていて、そうだけど……?って答えると、やっぱり、そうクスクス笑った。
「どうせ、あの時のタオルもずっと持ち歩いてるんだろ?」
「そ、それが何だって言うんだよ?」
慌てて背中に隠したカバンの中には、あの後からずっと忍ばせてるネコ丸に貸したタオル。
あの日、涙でグチャグチャになって、かーちゃんに洗濯してもらってからは、すっかり小宮山の香りは抜けてしまったけれど、それでもそのタオルに顔を埋めると何となく落ち着いて、いつ発作が起きてもいいようにいつも持ち歩いている。
苦しくなると無意識のうちに握りしめる胸のボタン、それからネコ丸のタオル……
ニヤニヤしてオレをみる不二に、なんだよ、文句あんのかよ?なんて頬を膨らませる。
「文句なんかないよ、タバコの時はさすがにどうしようかと思っていたけどね」
「……あれは自分でもマズかったと思ってるって」
そう言って苦笑いしているオレの横で、いつ気がつくのかな……?そう言って不二が意味ありげに笑った。
「さ、いつまでも英二になんか付き合っていられないよ」
そう言って不二がラケットバッグを肩に掛けて立ち上がるから、これからトレーニングかよ?そう問いかけると、まあね、そういつものにこやかな笑顔で不二が答える。
「負けられない理由が出来たんだ」
「……それって小宮山?」
「うん、彼女と約束したからね、必ず勝つって」
そう珍しく勝負に執着するその様子に、本当に告んなくていいのかよ……?そう視線を足元に落としながら呟くように問いかける。
不二が本気で好きになったなら、やっぱさっさと小宮山との関係は終わらせないとな……
不二の隣でもだいぶ笑顔を見せるようになった小宮山の顔を思い出す。
なぜかまた胸が鈍い痛みを放って、慌ててギュッとボタンをおさえた。