第36章 【セイフクデート】
光丘の駅から自宅にむかうと、夕焼け空はすっかりと藍色になっていて、沈む直前の朱色と綺麗なグラデーションを描いている。
まるで吸い込まれるように公園へと足を向けると、ランニングしている人たちを、オレも中学の頃はここで走り込んだりしたっけな、なんてボーッと眺める。
しばらく歩いて反対側の東屋のベンチまで来ると、そっとその背もたれに手を突いてそれからゆっくり腰を下ろす。
フーッとため息を突いて身体を投げ出すようにもたれ掛かると、そっと痛む胸のボタンを握りながら足元に視線を落とした。
「……アイツ、ちゃんと笑った?」
「僕と一緒にいるときはね、今頃は……どうかな」
視線に入った不二の靴に問いかけると、やっぱ泣いてるよな……そう思ってまたため息を落とす。
「あの一年生の子は……?桃の好きな子だよね?」
「……さっき振った」
「可哀想に、英二に振り回されて、彼女も、小宮山さんも」
そう言って隣に腰を下ろした不二からは、微かに小宮山の香りがして、胸のボタンを握る拳に力を込める。
「……今まで一緒だったのかよ?」
「さっき自宅に送り届けてきたところだよ」
「ヤってきた?」
「そんなはず無いだろう、全く、英二は……」
説教しに来たのかよ?、そう苦笑いしてちらっと視線をむけると、しないよ、小宮山さんに止められているからね、そう言って不二はため息をついた。
「……告んねーの?」
「言わないよ、小宮山さんを困らせるだけだからね」
「あっさり認めんね」
「だからって僕に遠慮したら許さないよ?」
しないよ、小宮山、もともとオレんだもん、そう言って手をひらひらさせて鼻で笑うと、だったらどうして連絡してあげないの?そう不二は怖い顔でオレを真っ直ぐに見つめる。
やっぱ説教じゃん、そう首をすくめると、イライラするから、そうポツリと呟いて深いため息をついた。