第36章 【セイフクデート】
「随分真剣に願い事してたね」
ここにシワ、寄ってたよ?そう言って不二くんは自分の眉間を指さしてクスクス笑うから、そうでした?って慌ててさすってフフッと笑う。
「何を願っていたのか、聞いても大丈夫かな……?」
やっぱり英二のこと……?、そう申し訳なさそうに聞いてくる不二くんに、それもありますけど不二くんのこともですよ、なんて気にしてほしくなくて笑顔をむけると、僕のこと……?そう彼は目を見開いて少し驚いた顔をした。
「はい、インターハイで怪我などしないで、実力を発揮できますようにって……、私に祈られなくても不二くんなら大丈夫でしょうけど……」
本人に堂々と言うのってなんか恥ずかしいですね、そう髪の毛を耳にかけながら照れ笑いして見上げると、不二くんは真剣な顔をして私のことを真っ直ぐに見つめていた。
「……勝つよ、必ず」
真剣な不二くんのその目に吸い込まれそうになり、その力強い言葉に身動きが取れず身体が固まってしまうと、その瞬間、境内に強い風が沸き起こり、2人の間を吹き抜ける。
ひゃって思わず身体を縮こませて、それからそっともう一度不二くんを見ると、彼はいつもの優しい笑顔で微笑んで、私にそのきれいな手を差し出していた。
「……行こうか、送るよ」
「えっ……、は、い」
少し戸惑いながら自分の手を伸ばすと、不二くんはギュッと力を込めて私の手を握るから、どうしたらいいか分からずに俯いてしまう。
不二くんはどうしてこんなに優しいのかな……
もちろん、英二くんのことを救ってほしいからなんだろうけど……
それからはお互い何故か何も話さなくて、夕焼けの中、オレンジに染まる不二くんの背中に黙ってついて歩いた。
不二くんは私が辛いとき、必ず側にいて私を慰めてくれるな……
「やっぱり忘れることなんて出来そうにないな……」
不二くんが繋いだ手にギュッと力を込めてポツリと呟いたから、不二くん……?そう不思議に思って首を傾げた。