第36章 【セイフクデート】
カフェで簡単な軽食をとりながらゆったりと過ごすと、花屋の店先を覗いて鉢植えの植物を愛で、その後は雑貨屋さんで不二くんに見立ててもらった髪留めを購入する。
それから市立図書館に移動して、夏休みの課題レポートの本を選んだり、それぞれ本を薦めあって借りたり……
「小宮山さんは色々なジャンルの本を読んでいるんだね?」
「はい、でもやっぱりファンタジーやメルヘンが一番好きです」
氷の女王らしいですから、そう言ってクスクス笑うと、鉄の女じゃなくて良かったね、そう言って不二くんも笑う。
「全く桃は、本当は小宮山さん、こんなに暖かい人なのにね」
もうすっかり心、開いてくれたかな……?そう不二くんが私の顔を覗き込んで言うから、そう言えばいつの間にか不二くんの前でも普通に笑えるようになったな……なんて思ったら、ちょっと恥ずかしくなった。
言われてみるとそうですね……なんて言って慌てて目をそらすと、そんな私の顔を見ながら不二くんはクスクス笑い、小宮山さん、だいぶ印象変わったな、なんて言うから、やっぱり怖い印象でしたか?そう問いかける。
「そんなこと無いよ、ただ、だいぶ混乱したけどね、本当にビッチなのかなって……」
「そ、そのことは忘れてください!」
急に不二くんがそう言うから、最初にキスしたときのことだとか、誘惑して押し倒したことを思い出して、凄く恥ずかしくなって、赤くなる頬を慌てて両方の手のひらで覆って俯いた。
「ふふ、どうしようかな……?」
「そんなこと言わず、今すぐ忘れてください!」
並んで歩きながらそんな話をしていると、ふと気がついた赤い鳥居に足を止める。
少し寄っていいですか?そう言って様子を伺うと、願い事……?そうちょっと不思議そうな顔をした不二くんに、はいと返事をして鳥居をくぐる。
作法通りに社まで進むと、五円玉をギュッと胸の前で握りしめてから願を掛ける。
不二くんがインターハイで怪我などせず、実力を発揮できますように……
それから……英二くんが心から笑えますように……
神様、お願いします、そう2人の事を祈って手をあわせた。