第36章 【セイフクデート】
「違う違う!芽衣子ちゃんはオトモダチ♪」
そう言って鳴海さんを抱きしめたまま笑う英二くんの顔が何度も頭の中で繰り返す。
それから、鳴海さんの恥ずかしそうなんだけど、凄く嬉しそうな顔……
みんなが廊下に集まり、英二くんと鳴海さんの様子を興味津々で眺め騒いでいる。
英二くん、鳴海さんと親しそうにしてたけど、本当にそう言う関係になってたんだ……
鳴海さんのこと、好みのタイプだって言ってたし、そりゃ、私なんか必要なくなるよね……
私のことは徹底して無関係を装って、事務的な会話すら拒否してきた英二くんなのに、鳴海さんにはいつも凄く楽しそうに笑顔を向けていて、そしてみんなの前でも堂々と仲良くしている……
やっぱりこんな私じゃ恥ずかしいんだろうな……、そうどんどんネガティブな考えに支配されて、その場に立ち尽くしたままあふれる涙を慌ててハンカチでおさえる。
「ちょっと、ごめん!」
突然聞こえてきた不二くんの声にハンカチの隙間から視線をむけると、廊下やドアのところに群がって英二くん達を見ている人混みを掻き分けながら、小宮山さん!そう不二くんが必死な顔で駆けつけてくれた。
「……デート、して帰ろうか?小宮山さんの行きたいところに付き合うよ」
クラスメイトがまだ沢山残っている教室なのに、流れる涙をおさえきれない私の肩をそっと抱いて、みんなから気付かれないように隠してくれる不二くんに、ありがとうございます、そう言って精一杯の笑顔を作る。
「あー、不二くんも英二も彼女持ちじゃ、学校生活に何の夢も希望も見いだせない!」
「もう、やけ食い行くよ!ケーキバイキング、死ぬほど食べるよ!」
そう女の子達が騒ぐ中、不二くんに肩を抱えられたまま教室を後にする。
英二の次は不二だ、なんてみんなが振り向いてみる中、恥ずかしいだとか、誰かに悪いだとか、そんな事を考える余裕は全然なくて、ただ不二くんの優しさに今は甘えていたかった。