第36章 【セイフクデート】
「今日は本当にありがとうございました……」
夕方までたっぷり遊んだ駅の改札で、楽しかったです、そう少し寂しそうに笑う芽衣子ちゃんに笑顔で手を振ると、逃げるようにその場を後にする。
散々期待させるようなことをしておいて、本当、勝手なんだけど、今にも芽衣子ちゃんがもう一度告白してきそうで、やばいよな……って光丘行きのホームへと足早に向かう。
「あのっ!待ってください!菊丸先輩!」
後ろから聞こえたその声に思わず立ち止まり、それから、なに立ち止まってんだよ、なんて後悔する。
気がつかなかった振りして逃げりゃ良かったじゃん、なんてため息をついて、それから大きく息を吸い、どったの、芽衣子ちゃん……?、そう振り返りながら覚悟を決めた。
「あ、あの……菊丸先輩、私……」
息を切らして追いかけてきた芽衣子ちゃんは、オレの学ランの裾をギュッと握りしめて見上げると、それから、あっ……って不安げな顔をする。
……ああ、オレ、今、顔に出てんだろうな……
その芽衣子ちゃんの様子にそんな風に思いながら、ん……?そう問いかけると、芽衣子ちゃんは一瞬目を伏せて、それから意を決したように顔を上げてオレをみる。
「……先輩、前に私、先輩のこと好きだっていいましたよね……?」
「……ん……」
「嬉しいけどごめんねって……今も、答え、変わりませんか……?」
「……うん、ごめんね……」
その瞬間、芽衣子ちゃんの不安げな顔が悲しいものに変わり、目から涙が溢れ出した。