第36章 【セイフクデート】
「な、鳴海と英二先輩!?、なんで手なんか繋いで……!」
突然そんな声が聞こえて、げって思ってその声の方向をみると、ラケットバッグを肩に掛けて青ざめている桃が立っていた。
やべーって思って、桃ちん、これは何でもないよー?そう慌てて繋いでいた手を離そうとすると、芽衣子ちゃんがギュッと握ってそれを拒む。
「菊丸先輩、早く行きましょう!」
「……へ?でも、桃が……」
「いいから早くっ!」
そう言ってオレの腕を引いて走り出した芽衣子ちゃんに戸惑いながら着いていくと、鳴海ー!と桃が追ってくる。
「もう!桃城くんなんか大嫌いって言ったでしょ!ついてこないで!」
その瞬間、まるで白い灰になりサーッと消えながらショックを受けている桃に、ごめん、桃、そうジェスチャーで謝り、それから芽衣子ちゃんに手を引かれて歩いた。
「菊丸先輩と一緒に帰れるなんて、勇気出して良かった……」
そう嬉しそうに笑う芽衣子ちゃんと駅前にむかう。
せっかくだから、少し寄り道してもいいですか?そう芽衣子ちゃんが上目いで首を傾げるから、別に良いよん、なんて返事をする。
やった!そう嬉しそうに笑う芽衣子ちゃんに笑顔を返しながら、オレ、何やってんだよ……なんて心の中で後悔する。
こんなの、ただの小宮山に対する当て付けじゃん……
相変わらずオドオドしている小宮山にすげーイライラして、その目の前で訪ねてきた芽衣子ちゃんに飛びついた。
芽衣子ちゃんと仲良いところを見せつけて、まるでセフレにしたような言い方して、泣きそうな小宮山の目の前で芽衣子ちゃんの手を取った……
よろめいた小宮山の、涙を滲ませた顔を思いだし、また胸がズキンと痛む。
しかも関係ない芽衣子ちゃんまで巻き込んでさ……
やっぱ期待しちゃってるよなぁ……そう頬を染めて嬉しそうにしている芽衣子ちゃんにも、罪悪感で胸がいっぱいになる。
あんな風に学校で思いっきり噂になるようなことをして、桃だって今頃すげー怒ってんだろうなぁ……なんて、ずっと繋がれたままの手にため息をついた。