第36章 【セイフクデート】
「違う違う!芽衣子ちゃんはオトモダチ♪」
そう芽衣子ちゃんの身体を包み込んだまま、くるっと教室内に視線をむけて手をヒラヒラさせると、その様子を目を見開いて固まって見ている小宮山と目があった。
あっ……て口を開きかけて、慌ててそれを結んで目を伏せた小宮山の横を、芽衣子ちゃんちょっと待っててねー、速攻で準備しちゃうから♪、そうウインクして通り過ぎる。
狙ってんだろー?そう冷やかす友人達に、さー、どうでしょうー?なんてとぼけて荷物をまとめると、その様子を面白くなさそうに見ている女子達に、おまえら芽衣子ちゃんになんかすんなよ?オレ怒るかんな!そう指をさして釘を刺した。
「おまたへ、芽衣子ちゃん♪」
そう言ってもう一度小宮山の横を通り過ぎると、追い越し間際に肩がぶつかり小宮山が数歩よろめいた。
あっ、って思って一瞬振り返るも、目があった小宮山は今にも泣きそうな顔で目に涙をにじませていて、その辛そうな顔にズキンと大きく胸が痛んだ。
行こっ!そう胸の痛みを振り払うように語尾を跳ねさせながら明るく言って、ギュッと芽衣子ちゃんの手を取ると、上手くやれよ!なんて冷やかすみんなにブイサインをして、まったねー、なんて言って教室を後にする。
最後にもう一度チラッと見た小宮山は、その場に立ち尽くしたまま、制服のスカートをギュッと握って俯いていた。
「英二、マジで?」
「ブイッ♪」
振り返って騒ぐみんなにブイサインで答えながら、芽衣子ちゃんと並んで廊下を歩くと、不二の教室の前で怖い顔をしている不二とすれ違う。
「……行ってやれば?」
「言われなくてもそうするよ」
そう言って不二は小宮山の元へと急いでむかい、オレは目を伏せてギュッと下唇を噛んだ。
「……菊丸先輩?」
「あ、ううん、何でもないよん?」
そんなオレたちの様子に不思議そうな顔をする芽衣子ちゃんに慌てて笑顔を向けると、芽衣子ちゃんはまた柔らかい笑顔で笑った。