第36章 【セイフクデート】
「英二ー、夏休みなにしてんだよー?」
「んー……今んとこ特に予定ないかなー?大石と遊ぶー」
HRが終わると、やっと窮屈な授業から解放された喜びで、やっほーい♪と両手を伸ばして大きな声を上げると、それから周りの友人達と話し込む。
「……あ、あの……菊丸、くん」
突然小宮山に声をかけられて、思わずピクッと身体を固まらせ、それから、どったのー?小宮山さん、そう声をかけられた方を笑顔で振り返る。
……なんで声なんかかけてくんだよ?
そんな思いが小宮山に伝わったのか、一瞬、小宮山はビクッと肩を振るわせたけど、すぐにいつものツンツン顔に戻って、呼んでます、そう入り口の方を手で指した。
ああ、そういや小宮山、時々こうやって呼び出し頼まれると本人のとこまで呼びに行ってるっけ……
わざわざあんがとねって作った笑顔を向けて、それから入り口に視線を向けるとそこには芽衣子ちゃんがいて、可愛い笑顔でペコッと頭を下げていた。
「芽衣子ちゃんじゃん♪」
教室中が注目する中、やっほー、と大きく両手を振ると、芽衣子ちゃんも可愛い笑顔で手を振り返す。
本当、大胆だよなー、普通、上級生のフロアに来るだけでも居心地悪いのにさ、そうその堂々とした様子に苦笑いする。
それから、自分の席に戻ろうとする小宮山にチラッと視線を向けると、多分、他の誰も気がつかないだろうけど、オレには必死に泣くのを我慢しているのがバレバレで、その様子に相変わらずイライラした。
芽衣子ちゃーん♪、そうはしゃいだ声を上げて小宮山を追い越し、そのまま芽衣子ちゃんに飛びつくと、来てくれたのー?そうその顔を覗き込む。
「は、はい、その……一緒に帰りたくて……」
そう頬を赤らめながらオレの腕の中で嬉しそうに笑う芽衣子ちゃんに、もちろんいいよん♪、そう満面の笑顔で返事をすると、教室内がざわめいて、英二、彼女出来たのかよ?、そんな事をみんなが口にした。