第36章 【セイフクデート】
「夏休みだからってだらけるなよー、特に外部受験を考えているやつはこの夏は大事だからなー、以上だー」
一学期最後のHRが終わり、私にとっても最後となる号令をかける。
二学期からは正式に生徒会執行部員になるから、入学以来ずっとやっていた学級委員もこれで最後。
とは言っても、雑用などは結局私がやることになる気もしないでもないけれど。
開放感に沸き起こる歓声の中、チラッと教室の反対側の席に視線を向ける。
英二くんは嬉しそうに友達と談笑していて、そんな彼の笑顔にギュッと胸が締め付けられた。
コレでもう英二くんと二学期まで会えないかも知れない……
何も言ってくれないよね……やっぱり……
目を伏せてそっとため息をつく。
「あの、すみません……」
入り口から声をかけられて顔を上げると、その人物の顔を確認してドクンと心臓が大きく脈を打つ。
……なんで、ここにいるの……?
そこにいたのはあの鳴海さんで、そんな彼女を目を見開いたまま見て固まっている私に、あ、不二先輩の……そう彼女も驚いた顔で口走り、それから慌ててその口を抑えた。
「あの……小宮山先輩……?」
そう恐る恐る声をかける鳴海さんの声で我に返り、慌てて平静を取り戻そうとギュッと胸をおさえる。
どうして彼女がここにいるのかなんて、そんなこと決まっている……
すみません、何でもありません、そう呟いて彼女のその柔らかい顔を真っ直ぐに見つめた。
「あの、菊丸先輩、呼んで貰えますか?」
……やっぱり、鳴海さんがうちのクラスに来る用事なんてそれしかないよね……
そう思いながら立ち上がり、英二くんの方に視線を向ける。
声、かけたらまた嫌な顔されるよね……
でも……分かっているけれど、鳴海さんの頼みを断るなんて不自然だし……
入り口から一番近くの席の私は呼び出しを頼まれることは珍しくない。
その都度、大声をあげるのは得意じゃないから本人の側まで行って声をかける。
すーっと大きく息を吸うと、いつものこと、なにも特別じゃない……そう自分に言い聞かせて、ドキドキしながら英二くんの元へと向かった。