第35章 【ナツヤスミマデ】
そもそも私が勝手に考えていただけ。
同じキャンパスに通っていたら、セフレという関係を続けられるんじゃないかって、そんな自分の都合の良いように思って、勝手に悩んでいただけ。
第一、既に英二くんに必要とされていない今となっては、同じキャンパスだろうが、遠いイギリスだろうが、どちらにしたって全く関係ない。
自分の気持ちに区切りをつけるため、今日、勢いで提出してきた調査票にはイギリスの大学名を書いた。
書いたんだけど……やっぱり割り切れなくてモヤモヤしてしまう。
全然頭に入ってこない不二くんの星の王子様をパタンと閉じて机の上に置くと、ベッドに移動して寝転がる。
英二くんからのメールが届かなくなって久しい携帯を眺めながら、彼の歪んだままの胸のボタンを思い出す。
あんな下手くそなのに、英二くん、どうして付け替えないのかな……?
こんなに嫌がられてるのに、そのままだから、私、そのボタンにすがっちゃうよ……
これで大丈夫だって、そう言って優しく頭を撫でてくれた英二くんの笑顔を思い出す。
そっとその髪に触れると目尻から涙が耳の方へと伝い落ちた。
「璃音、ちょっと手伝ってもらえる?」
ドアをノックしてそう問いかける母の声に、慌てて涙を拭ってはーいと返事をする。
何すればいいの?そう笑顔でキッチンにむかうと、お皿並べて?とお母さんが笑顔で振り返った。
「勉強の邪魔しちゃった?」
「ううん、本読んでたから」
今、何読んでるの?そう聞くお母さんに、棚からお皿を取り出しながら、星の王子様だよ、英語版の、そう答えてテーブルに並べる。
「借りたの……友達に……」
そうドキドキしながら母に打ち明けると、ピクッと肩を震わせたお母さんが目を見開いて振り返る。
「……ちょっと前にね、友達って言ってくれたの……」
そうなの、そう頷いて少し複雑そうに微笑むお母さんに、大丈夫、すごくいい人だよ、見せかけじゃなくて……そう言って私も微笑むと、今度、連れてきてね?なんて言ってお母さんは笑った。