第35章 【ナツヤスミマデ】
不二くんにもう一度、本のお礼を言ってわかれると、自分の教室に向かって歩きだす。
途中で担任の先生が歩いてくるから、ペコッと会釈してすれ違う。
「あ、小宮山、ちょうど探していたんだ!」
すれ違い間際にそう声をかけられたから、何でしょう……?そういつもの雑用だろうと、気にもとめず返事をする。
「お前、まだ進路調査票、出してないだろう?夏休み前にはちゃんと出せよ?流石にそれ以上は待てないからな」
はっとして、すみません、ちょっと悩んじゃって……そう頭を下げてため息をつく。
どうしても進学先を決められなくて、先生に無理を言って提出期限をギリギリまで延ばしてもらった。
延ばしてもらったところで結局決めれなくて、未だに白紙のままカバンの中のファイルに挟まっている。
ま、お前の事だからいつ進路先を変えてもちゃんと対応できるだろうし、建て前でいいからなんか書いて出しておけよー、なんて適当な事を言う先生に内心苦笑いする。
本当にどうしようかな……
青学とイギリス……英二くんと自分の夢……
何度考えてもでない答えにフーッと大きくため息をつく。
「菊丸!お前も探してたんだ!」
後ろから聞こえたその悩みの種の人物名にピクッと肩を震わせて立ち止まる。
「進路調査票、ちゃんとおうちの方と相談して書き直せって言ったろう!」
「先生、またその話ー?ちゃんと相談したっていったじゃん!」
オレは進学しないの!適当に就職すんだって!その言葉に思わず目を見開いて振り返る。
その爆弾発言に周りの生徒達も騒ぎだし、バカ、大きい声で言うな!そう先生が英二くんの頭をゴツンと叩く。
……就職……?
英二くん、大学部に進学しないの……!?
ひでー、そう頭を抑える英二くんのその様子をじっと見てしまって、そんな私に気がついた彼は、また眉間にしわを寄せる。
慌てて目を伏せてくるりと背を向けると、バクバクする心臓を抑えて走り出す。
……就職……英二くんが……就職……?
教室の自分の席に座ると、そう何度も心の中で呟いた。