第35章 【ナツヤスミマデ】
「……小宮山さん?」
私のその様子に気がついた不二くんが不思議そうな顔をして振り返り、私の視線の先を確かめる。
英二くんと鳴海さんに気がついた不二くんは眉間にシワを寄せて、もう一度、小宮山さん……そう私の名前を呟いた。
「いつものことですよ……」
そう言って苦笑いをした瞬間、英二くんがこちらの方を見上げたから、ドクンと大きく心臓が跳ねて慌ててしゃがみ込む。
気付かれた……?
見ていたのが知られたら、また嫌な顔されちゃう……窓下の壁に身体を縮こめてバクバクする胸を必死に抑える。
不二ー!そう英二くんの声が聞こえ、それを無視した不二くんに、なんだよぅ、不二のバカ!そう頬を膨らませた声がする。
良かった……
気づかれなかったみたい……そうホッと胸をなで下ろす。
「あ、英二と……誰だ、あの可愛い女子?」
「一年の鳴海芽衣子じゃん、なんか親しそう、付き合ってんのかな?」
そんな近くにいた男子達の声にまた胸を痛める。
しゃがみこむ私を、みんなが不思議そうに眺めて通り過ぎていく。
「……小宮山さん、もういなくなったよ」
そう言って差し出してくれた不二くんの手を、ありがとうございます、そう言ってそっと取って立ち上がる。
「無視したんですか……?」
そう苦笑いして問いかけると、僕は小宮山さんの味方だからね、そう言って不二くんは微笑んだ。
「まだ……?」
そう不二くんが眉をひそめて私の首元に視線を向けたから、髪をそっと持ち上げて、もうすっかり消えてなんのしるしも無くなった、まっさらな首を晒して苦笑いする。
「せっかく不二くんにあんな風に言ってもらったんですけど、もう意味ないかもしれませんね……」
必要とされないんじゃ、側にいられないもの……そうポツリと呟いて夏空を仰ぐ。
窓枠についた手をギュッと握りしめると、その手にそっと不二くんの手が添えられた。
相変わらず不二くんの手は温かいな……
その優しい顔を見上げると、大丈夫ですよ……?そう呟いて笑顔の奥に切なさを隠した。