第35章 【ナツヤスミマデ】
期末試験が終わると生徒達の心は一足早く夏休み突入で、みんなすっかり浮き足立っていた。
お昼休みのいつもの体育館裏から戻る廊下にも、夏休みの予定を楽しそうに話す生徒達の声が響いている。
英二くんの態度は相変わらずで、目が合う度に嫌な顔をされるから、必死に関わらないようにしていた。
精神的に辛くて期末試験は厳しいかなって思ったけど、なんとか今回も無事に成績を落とさずに済んで良かった。
廊下の掲示板の一番高い位置にある自分の名前を見て改めてホッと胸をなで下ろす。
別に、首席にこだわっているわけじゃないけれど、中学の時に成績落としてなんだかんだ言われた苦い経験もあるし、第一、成績が落ちれば両親に何かあったのが丸わかりだから、心配をかけたくないし本当に良かった。
「やあ、小宮山さん」
ポンと肩をたたかれて、声をかけてきた人物に、こんにちは、不二くん、そう答えながら振り返る。
「はい、これ、昨日メールで約束した本」
ちょうどキミの教室に持って行こうと思っていたところなんだ、そう言って差し出してくれた星の王子様の英語版を受け取る。
英二くんからいっさい連絡が無くなったから、今では携帯がなると条件反射ですぐに不二くんだって思えるほど、彼とメールや電話で話をするのが当たり前になっていた。
「ありがとうございます、でも本当にいいんですか?お気に入りなんですよね……?」
「いいんだよ、小宮山さんなら丁寧に扱ってくれるからね」
日本語版は何度か読んだことがある星の王子様、その時の心情で読む度に色々な思いが広がる不思議な作品。
英語版は初めてだけど、今読んだらどんな気持ちになるのかな……そっとその本を抱きしめる。
「小宮山さんは電子書籍派じゃないんだね」
「はい、本の温もりやインクの香りが好きなんです」
本棚がすぐにいっぱいになっちゃうから大変なんですけど、そう言って笑うと、その気持ちわかるなぁ……そう不二くんも笑った。