第35章 【ナツヤスミマデ】
「あ、そうそう、英二!」
リビングを出ようとするオレをかーちゃんが呼び止めるから、なーにー?そう言って振り返ると、ずずーっとお茶をすすりながらゆっくりとかーちゃんが口を開く。
「いっとくけど、あんた、赤点ひとつでもとったら、小遣いなしの携帯解約ね」
「……マジで?」
「マジでよ」
マジでー!?部屋に戻ると机に突っ伏して頭をかき乱す。
小遣いなしの携帯解約って、オレに死ねってことー?
言い出したら聞かないかーちゃんだからなぁ……有言実行は手塚並。
苦手科目の英語なんて赤点確実、いつも追試や課題提出でなんとか乗り切ってるってのにさ……
はぁー……ため息をついてチラッと視線を向けた先には小宮山が持ってきた授業のノートをまとめたレポート用紙。
丸めてゴミ箱に放ったあの日以来、一度も手に取っていないそれは、とーちゃんにシワをのばされた後、机の上に放置されたままだった。
そういやあん時の授業は英語だったはず……
小宮山、期末対策もしてるっていってたっけ……
突っ伏したまま手を伸ばしたそのレポート用紙には、授業の細かいポイントや、期末に出る予想問題なんかも書いてあって、しかもオレのレベルにあわせてくれたと思えるほど丁寧に解説もしてあった。
ふーん、確かに分かりやすいかもね……
背に腹はかえられねーか、小遣いなしと携帯解約なんてマジ勘弁だし……
パンッと両頬を叩いて、うしっ!と身体を起こすと、やる気スイッチをオンにする。
カバンを開けていつも建て前で持って行っている筆記用具を取り出すと、小宮山のノートに目を通す。
これだけ完璧パーペキパーフェクトにしとけば、なんとか赤点は免れんだろ、そう思ってそこに書いてあるものを徹底的に頭に叩き込んだ。