第34章 【タイイクサイニテ】
「美沙、遅ーい!何してたの?」
「ん、ちょっと……歌の途中でごめんねー」
カラオケ屋での打ち上げも盛り上がり始めた頃、市川が遅れて部屋に入ってくる。
チラッと視線を向けて笑顔でおー!って出迎えると、あとは特に気にせず周りのみんなと話ながら、前に並んだスナック菓子に手を伸ばす。
学校の打ち上げはたいていこの青春台駅前のカラオケ屋。
オレの行きつけとは違う、いたってふつーの健全なところね。
「3組や7組も来てたよー!」
「マジ?不二くんいるかなー?」
「あんた、もうあきらめなさいよ、小宮山さんのものなんだから」
「はぁ……だよねー、悔しいけど仕方がないか……昨日の不二くん、カッコ良かったし」
昨日の今日だから話題は自然と不二と小宮山のものになり、英二、知らないって言って本当は色々知ってるんでしょ?教えてよー、なんてみんなの視線がオレに集まる。
もう何度目かもわからない質問に、本気でウザくなってきて、だから本当になんも知らないんだって、オレ、もうその話題飽きたーなんて頬を膨らませて不満を漏らす。
流石に元気で明るい菊丸英二くんとしては、チッとかウゼーとか、本音なんか出せないかんね……
「ね、英二、ちょっと、いい?」
気分転換に立ったトイレから出ると、オレを待ち伏せしてた市川に声をかけられ、その予想外の出来事に一瞬目を丸くする。
「うんざりしてるところ悪いんだけど、小宮山さんのことでちょっとさ」
「お前、その顔、全然悪いと思ってないだろー?」
悪いと思うなら小宮山の話題なんか出すなよ、そう思いながら、で、小宮山さんがどーしたのさ?なんて問いかける。
「最初にいっとくけど、不二とのことは本当に何も知らないよん?」
「いや、不二くんは関係なくてさ」
不二以外の話題で小宮山のこと……?
まさか小宮山、市川にまでオレとの関係悟られたんじゃないだろーなー……?
海堂とのやりとりを思い出してまたイライラを募らせるも、なんでもない顔をして苦笑いにそれを隠した。