第34章 【タイイクサイニテ】
ど、どうして……?
英二くんのジャージの裾を掴んで切なそうに見上げる鳴海さんと、そんな鳴海さんに一瞬戸惑うも、すぐにニイッと笑ったその英二くんの笑顔をそれ以上見ていたくなくて、慌てて思い切り顔を背けた。
英二くん、あの時、その子のこと、確かに振っていたよね……?
なのに、なんであんなに親しそうにしているの……?
芽衣子ちゃん、なんて名前で呼ぶくらい親しい関係なの……?
考えちゃダメ、そう思っても頭に浮かんでくるのはそんな疑問符ばかり。
そっか、あのおにぎりを見たときの胸騒ぎはこれだったんだ……妙に納得してまたざわめく胸をおさえると涙が滲んだ。
「俺はもう我慢出来ねぇ!!」
だー!!鳴海!!速まるなー!!!、そう叫びながら桃城くんが飛び出して行くのを見て我に返る。
大丈夫っすか?小宮山先輩、そう海堂くんの私を気遣う声に慌てて涙を拭う。
「すみません、委員の仕事がありますのでこれで失礼します」
本当にありがとうございました、そうもう一度、荷物を運んでくれたお礼を言うと、英二くんに見つからないように急いでその場から離れた。
「英二、お帰りー!」
「凄くカッコ良かったよー♪」
自分の席に戻って程なくすると、そんな英二くんを出迎えるみんなの声が聞こえる。
当然だけど私は顔を上げることすら出来なくて、膝の上で握った拳をじっと見つめてソレをやり過ごす。
そんな英二くんは私の横を素通りすると、ブイブイビー♪とはしゃぎながらみんなの和に入っていく。
気にしちゃダメ、考えちゃダメ、もともと私には関係のないことなのだから……
そう自分に言い聞かせても、先ほどの2人の光景が脳裏に焼き付いて、グルグルグルグル繰り返す。
あんなの、いつもの事じゃない……
ほら、今だってあの子も英二くんの腕に触ってるし……
でもそれとは比べ物にならない不快感と、それからどうしようもない不安感が胸を襲ってどんどん大きくなっていく。
膝の上で握りしめた拳に、また力を込めると、その上にポタッと滴が落ちた。