第34章 【タイイクサイニテ】
「英二先輩!鳴海には手を出さないって言ったじゃないっすか!」
「……あのねぇ、桃ちん、オレ、まだ何もしてないよん?」
「まだ!?まだってことはコレからなんかするつもりだったんすか!?」
そう鼻息を荒くする桃を、まぁまぁと笑顔でなだめながら、手ぇ出されてんのはオレの方だし……なんて内心苦笑いをする。
「だから鳴海!あれほど英二先輩だけは辞めとけって言ったじゃねーか!」
「あの……ちょっと、桃城くん……」
そう芽衣子ちゃんに必死に訴える桃と、その桃に戸惑う芽衣子ちゃんを眺めながら、相変わらず桃ちんは好き勝手言ってくれんね、そう思って苦笑いする。
「だから鳴海!英二先輩はどうしようもない女……」
「桃ちーん、それ以上言ったらいくら温厚なオレでも怒るよん?」
そう言って後ろから飛びついておんぶ状態になると、また桃の言葉を打ち消して、それから、桃の言うことなんか気にしないでねー?そう言って芽衣子ちゃんに笑顔を向ける。
はい、そうオレの笑顔に頬を赤らめて芽衣子ちゃんは嬉しそうに微笑んだから、そんな様子を見て情けない顔をした桃は、海堂も何とか言ってくれよ、そう言って飛び出してきた先の茂みを振り返る。
へー、海堂もいんの?そう思ってそちらに視線をむけると、フシューっとため息をつきながら、海堂が気まずそうに顔をのぞかせた。
「な、海堂!英二先輩だけはダメだよな!?お前も鳴海にそう言ってくれよ!」
「……さぁ、本人がいいなら別にいいんじゃないのか?」
「テメェ、人事だと思って……!」
「うるせぇ、男ならゴチャゴチャ言ってねーで、ちったぁ黙ってろ」
……菊丸先輩と彼女の問題だ、他人は口を挟むな、そうオレをチラッと見て言う海堂のその様子に違和感を覚え、何が言いたいんだよ?そう思わず声に出しそうになる。
鳴海は英二先輩の本性を知らねーから……そう小さい声でブツブツ文句を言っている桃を睨みつけながら、違和感を覚えた海堂の様子をこっそり伺うと、海堂は関係ない方向をいつもの鋭い目つきで見つめていた。