第34章 【タイイクサイニテ】
「あ、菊丸先輩!」
競技を終えて自分のクラス席に戻ろうとすると、聞き覚えのある声に呼び止められる。
んー?って思って、ほいほーい、芽衣子ちゃん、そう笑顔で振り向くと、彼女は嬉しそうに頬を染めて立っていた。
「先輩、今日はずっと大活躍ですね?」
そう言ってクスクス笑う芽衣子ちゃんに、まーねーなんて言ってブイサインをして、こんな時くらいしか、オレ、見せ場ないし?なんておどけて笑うと、えー?そう言って芽衣子ちゃんも楽しそうに笑った。
それから芽衣子ちゃんは、あ、あの……そうちょっと声のトーンを抑えてオレの顔を伺き見るから、どったの?そう目をぱちくりさせて返事をする。
「……一昨日、菊丸先輩、おなかが痛くて早退したって聞いて……その、私……」
そう言いにくそうに視線を泳がせる芽衣子ちゃんに、なんだろ?って思ってその言葉を先を待つと、芽衣子ちゃんはは涙目になりながら、オレのジャージの袖の先をちょっと摘まんで上目使いで見上げてくる。
その仕草に、んー……?って思いながらも、私のおにぎりのせいだったらって、心配で心配で……そう不安そうな顔をする芽衣子ちゃんに、うんにゃー、違う違う!そう大きく手を振ってソレを否定する。
「芽衣子ちゃんのせいじゃないって、オレが早退したのは別の理由だからさ!」
おにぎり、すんげー美味しかったよん!そう言って顔を覗き込んでウインクをすると、良かった……そう芽衣子ちゃんはホッとした笑顔を見せた。
「あの……菊丸先輩、私……」
そう頬を染めて涙目で見上げる芽衣子ちゃんが、オレのジャージを掴む手に力を込めてくるから、んー……本当、すんげー、可愛いよなー……なんて思いながらその顔をマジマジと見つめる。
「だー!!鳴海!!速まるなー!!!」
すると突然、近くの茂みからそう桃が大声を上げながら飛び出してきたから、ほえ?って驚いて目丸くすると、そんな桃はオレと芽衣子ちゃんの間に入って、オレをギロッと睨みつけた。