第34章 【タイイクサイニテ】
「海堂くん、どうもありがとうございました」
倉庫まで運んで貰い海堂くんにお礼を言うと、こんな奴に礼なんかいいっすよ、不二先輩の彼女!なんて桃城くんが言うから、テメェが言うな!そう海堂くんが声を荒げ、だから小宮山ですって私はため息をつく。
もういいや……なんて半分諦めながら、それでは、そう言って席へ戻ろうとすると、あっ!って声を上げた桃城くんに思い切り頭を下げられ、近くの茂みに潜らされる。
「何するん……」
「いーから、ちょっと黙っててくださいよ!」
私の抗議の声にしーっと唇に人差し指をあてた桃城くんは、マムシも早くしゃがめよ!見つかっちまうだろ?そう海堂くんに声をかける。
何に見つかるって言うのよ……?そう思いながら海堂くんと顔を見合わせて首を傾げると、くぅー、鳴海ー……そうブツブツ何か言っている桃城くんの視線の先に目を向ける。
あれ……?
確かあの子……前に体育館裏で英二くんに告白してた……
嫌な予感がしてドクンと大きく嫌な脈を打ち始める。
全身が小刻みに震えるのを感じ、慌てて両腕を抱えてソレをこらえる。
鳴海と呼ばれたその子は頬を赤らめながら笑顔で誰かと話をしていて、その先に恐る恐るを視線を向ける。
「アレはテメェのクラスの鳴海と……菊丸先輩じゃねーか……」
……やっぱり英二くん……
そう隣で海堂くんが言うのと同時に、鳴海さんの前で無邪気に笑う英二くんを確認して、その光景を愕然として見つめた。
鳴海さんは相変わらず可愛くて、頬を染めて柔らかく笑っていて、英二くんも凄く楽しそうで、そんな2人の様子に胸の奥がズキンと痛んだ。
「鳴海ー、騙されちゃいけねーなー、いけねーよ!」
「……くだらねぇ、なんで俺まで隠れなきゃなんねーんだ!」
「ウルセェ!いいから黙って見てろ!」
そう文句を言う海堂くんも、その桃城くんの迫力に負けて渋々とまた身を隠す。
そんなすぐ隣で繰り広げられる2人とやりとりをどこか遠くに聞きながら、英二くんと鳴海さんを信じられない気持ちで眺めた。