第34章 【タイイクサイニテ】
「あ、桃城くん……」
「どーもっす!」
不二くんの彼女じゃないんですけど、内心そう思いながら、桃城くんに頭を下げると、彼は私に屈託のない笑顔を向ける。
その人懐っこい笑顔がどことなく英二くんの無邪気さとちょっと重なる気がした。
「コイツ、マムシっていうんすけどね、目つきの割にそこまで悪い奴じゃないっすから、どんどんコキ使ってやってくださいよ!」
そうヘラッと笑う桃城くんに、マムシと呼ばれた彼は、誰がマムシだ!そう食ってかかり、やんのか?テメェ、そう桃城くんが睨み返し、たちまち険悪な雰囲気になる。
そう言えばさっき一年生の徒競走でも、この2人、壮絶なデッドヒートを繰り広げた挙げ句、同時にゴールしてどっちが勝ったかで揉めてたっけ……
「えっと……海堂くん?倉庫までお願いできますか……?」
言い争いしてる2人に怖ず怖ずと声をかけると、あ、はい、そう我に返った海堂くんは頷いて、それから倉庫へむかって歩き出す。
その後ろをついて行くと、何故か桃城くんもついてきて、不二先輩の彼女の頼みなんだから、チャッチャと運べよ!なんて海堂くんに言うものだから、せっかく収まったのにまた険悪になる。
「……あの、小宮山です」
「だから不二先輩の彼女っすよね?俺、前に部室でキスしてたのを見たときから本当は誰かにいいたくてウズウズしてたんスよ!」
「……してませんが?」
部室では……ね、しかもキスしたことあるけど、そんな甘いものじゃないし……そう心の中で思いつつ「不二先輩の彼女」を連呼する桃城くんにため息をつく。
「おい、テメェ、馴れ馴れしいぞ、小宮山先輩が困ってるじゃねーか」
「何だよ、不二先輩の彼女なんだから別にいいだろ!」
「……だから小宮山です」
この2人、対象的だな、なんて内心苦笑いしつつ、海堂くんは見た目よりずっと礼儀正しい子なんだろうな、なんて思った。