第33章 【オイテケボリ】
「……小宮山さんだ、ほら、不二くんとつき合ってる……」
朝からずっと耳に届くこの同じ噂話は放課後になっても相変わらずで、その頻度に嫌気をさしながらため息をつく。
いくらなんでも、こうずっとだとね……
チラッと視線を向けると、ヤバって顔をして慌てて逃げていくその声の主たちの背中を、呆れながら眺める。
朝の英二くんや不二くん達が助けてくれたあの出来事は、私に対する不満の声をあっという間に黙らせたけど、その一方で何故か私と不二くんがつき合っている噂に信憑性を与えてしまったらしい。
不二くん、大切な「友人」って言ってくれたのになぁ……そうもう何度目かもわからないため息を落とした。
「やあ、小宮山さん、その後どう?」
そう後ろから声をかけられ、この声は……と振り返る。
そこには相変わらずにこやかな笑顔の不二くんが立っていて、この状況で声掛ける?なんてこっそり思いながら、はい、大丈夫です、本当に助かりました、そうまたお礼を言って頭を下げる。
これから委員会?そう私の手元のノートを覗き込んで不二くんが言うから、明日が体育祭ですから、なんて返事をする。
「……英二は?今日は一緒じゃないの?」
そう周りを気にしながら言う不二くんに、え、菊丸くんは多分、後からきます……そう目を伏せる。
相変わらずなの?そう少し眉間にシワを寄せる彼に、ちょっとだけ苦笑いをしてそれに答えた。
「……僕がもう一度言ってあげようか?」
そう心配そうに私を見る不二くんに、大丈夫です、そう静かに首を横に振る。
これは私の問題ですから……そう言って無理にまた笑顔を作る。
今は、英二くんをそっとしておいた方がいいと思う……多分、私が何をしても彼を苛つかせるだけ。
それはきっと不二くんが行動を起こしても同じだし、それどころか余計に拗れるかも……
今、私に出来ることは、英二くんの気が変わってまた連絡をくれるのを信じて待ち続けることだけ……
「大丈夫です、私、なれてますから、『待て』も『お預け』も……」
そう無理に笑う私に無言で手を伸ばしかけた不二くんは、ギュッとそれを握ってそっと引っ込めた。