第33章 【オイテケボリ】
「英二くん……!」
屋上からの階段を下りて踊場まで来ると、ギギーッとドアが開く音と同時に小宮山のオレを呼ぶ声がして、チラッと振り返る。
逆光でその表情は見えないけれど、泣きそうな顔をしているのが安易に想像出来て、ズキンと胸が罪悪感で痛んだ。
黙って様子を伺うも、なにも言わないからイラッとして歩みを再開すると、ま、待ってください、そう小宮山が慌てて声を上げる。
「だから何だよ?」
「あの……朝は、ありがとうございました……」
朝ってそんなことかよって思って、別に?さっき言われたし、第一、不二に言われただけだからって返事をすると、それでも、ありがとうございます、そう小宮山は頭を下げた。
そんだけ?そう言ってもう一度小宮山を見上げると、あ、私……その、そう一生懸命言葉を選んでいる様子に、はっきり言えよ、そうイライラを募らせる。
「……ごめんなさい……」
さんざん悩んで迷ったあげく、結局また謝んのかよ?
ふーっと大きなため息をついて、うぜー……そうボソッと呟いて頭をかき乱した。
「小宮山は、黙ってオレに呼び出されんの待ってりゃいいんだよ……」
そう吐き捨てるように呟くと、ビクッと小宮山の肩が大きく震えたけれど、構わず階段を下りてそのまま教室へとむかった。
胸のイライラがどんどん大きくなっていくのを感じて、その胸を必死におさえる。
なんで小宮山にこんな態度とってんだよ?そう自分に問いかける。
寝ぼけて頬に触れた時の嬉しそうな小宮山の顔を思い出し、そのキレイなサラサラの髪の感触が残る手の平をじっと見つめる。
オレをみる小宮山の顔が目の奥に焼き付いて離れない。
キスしようとした時の幸せそうな顔が、我に返って慌てて突き放したその瞬間、一瞬で悲痛なものへと変わった。
小宮山の口から謝罪の言葉が発せられる度に、どんどん膨らんでくる嫌悪感。
止まらない冷たい言葉、突き放す心。
オレ、また小宮山を呼び出すことなんてあんのかな……?そう思ってもう一度ため息をついた。