第32章 【ゲキタイ】
「それじゃ、7時40分に昇降口集合ね、くれぐれも小宮山さんに見つからないように!」
「ちょ、不二ぃ……って切れてる……」
ディスプレイに表示された通話終了の文字を眺めながら、相変わらず強引だよな、そう頭をかいて、めんどくせーって呟くと、それからチラッと大五郎に視線を向ける。
「第一、学校でもちーっとも笑わないでさ、友達1人もいないなんて、小宮山、どっかおかしいんじゃないの?」
そのオレの暴言に大五郎を抱きしめて肩を振るわせる小宮山を思い出し、それから、あの黒塗りの卒業アルバムを思い出し、慣れてるから平気って笑う小宮山の笑顔を思い出す。
胸の奥底にくすぶる嫌な感情を自覚しながらも、仕方がないか……そうため息をつくとベッドから起きだした。
「英二、どうしたの!?」
リビングに行くと、珍しく早起きしたオレに驚く家族に、オレだってたまには早く起きるよん、そうニイッと笑ってブイサインをする。
弁当をつめて朝食をとると、小宮山さんによろしくーなんて言うねーちゃん達に、何でだよって苦笑いして、それから心の中で舌打ちをする。
オレ、今日はもう学校行くから、そう逃げるようにリビングをでると、急いで髪をセットして学校へと向かう。
なんだかんだで10分ほど遅れて昇降口に着くと、ちょうど小宮山が靴を履き替えるところで、周りの視線に全く構わずに上靴を取り出すとそれを入念にチェックしていた。
何やってんだよ?そう思いながらこっそり見てると、その靴は落書きだらけで、はー……ってため息をつきながら頭をかいた。
小宮山、どうすんだろ?そう思ったら、何事もないようにそれを履いて、ローファーをカバンから取り出した紙袋に入れて、そのまま持って教室に向かった。
その堂々とした様子に周りがざわめいて、こういうことに慣れてるって本当なんだなって思って、胸が少し苦しくなった。