第32章 【ゲキタイ】
「な、何よ、ちょっとした冗談じゃない!」
「私達が悪かったわよ!」
そう慌てて教室を後にしようとする彼女達の前に河村くんが立ちはだかると、あんた達、ちゃんと消して上靴弁償しなさいよ!そう市川さんが声を荒げる。
「あの、別にかまいません、私、消しますし、上靴もちゃんとキレイなの持ってますから……」
「……なんで持ってるのに履かないの?」
「落書きだけなら問題なく履けますから……」
そう言う私にみんなが苦笑いをするから、そんなに変かな?そう思って首を傾げる。
とにかく、皆さん、ありがとうございました、そう言って英二くん達と市川さんにお礼を言う。
不満げな彼女達に机を拭いて貰って、一応、市川さんと不二くん達の圧力で上靴代も貰って、ついでに気まずそうな小林くん達からも頭を下げて貰って、これだけこのメンバーに睨みきかせて貰えたら、確かに嫌がらせはなくなるかもねって妙に納得してしまった。
それじゃ小宮山さん、また何かあったらすぐ僕に言ってね、そう言う不二くんに、いえ、自分でなんとかしますから……、ついそう答えてしまい彼が苦笑いをする。
「えっと、市川さん?、そのときは教えて貰える?多分、小宮山さんは言ってくれないし、英二はあてにならないからね」
そう苦笑いして言う不二くんに、任せておいて!そう市川さんは胸をたたき、英二くんは、ひでー、そう言って頬を膨らませた。
「小宮山さん、良かったね!」
そう笑いかける市川さんの笑顔に、ズキンと胸の奥が痛んで慌てて目を伏せる。
違うから……市川さんはナオちゃんじゃないから……
そう自分に言い聞かせても、市川さんの親切をナオちゃんのソレと重ねてしまう自分に嫌気がさす。
チラッと顔を上げて英二くんの様子を伺うと、さっきまでそこにいた彼の姿は既にもうなくて、あれ?って不自然にならないように教室内を見回したけど、やっぱりどこにもいなくて、英二くん……そうふーっとため息をついてまた俯いた。