第32章 【ゲキタイ】
「あ、小宮山璃音じゃん!」
「ほんとだ、小宮山さんだ……」
そうみんなが廊下の端から私を見ている。
その中心をまっすぐ前を向いて淡々と歩く。
あー、なんか花道歩いている気分、懐かしいなぁ……なんてちょっと思った。
教室に着くと目に留まるのは、やっぱり同じように遠巻きに私を見ているクラスメイトと、そして上靴と同じ落書きだらけの私の机。
教室の隅からふと聞こえてきたクスクスと言う笑い声。
チラッと視線をむけると彼女たちと目があって、あーら、小宮山さん、素敵な上靴と机ね、なんて彼女たちは笑う。
そうですね、そうその女子達に返事をすると、何事もないようにカバンの中身を机の中に入れて、そのままいつものように本を読み出す。
私の全く動じないその様子に、その女子達は悔しそうな顔をして、それから顔を見合わせてブツブツ文句を言った。
少しくらい落ち込んで涙ぐめば彼女達も満足するのかもしれないけれどね……なんて思いながらも、平然としすぎていてもエスカレートする可能性もあるしな……なんて内心ため息を落とす。
「小宮山の彼氏って不二だったんだ?」
……あー、とうとうはっきり聞かれたなって思って、チラッと視線だけ振り返ると、小林くん達が相変わらずニヤニヤして私を見ているから、……違いますよ、そう一言だけ返事をする。
「違うってことないじゃん?抱き合ってたくせに」
「だったら小宮山って、彼氏じゃなくてもあんなことできるってことじゃね?」
「マジで?んじゃ俺もお願いしちゃおうかなー?」
そう言ってゲラゲラ笑う彼らの言葉に、違います!そう否定しようとして言葉を詰まらせる。
アレは不二くんが慰めてくれただけで、私が抱きしめて欲しいのは英二くんだけ……
でも英二くんは彼氏じゃないから、きっぱり否定は出来ない……
結局、何も言えず、彼らの冷やかしを黙ってやり過ごすしかなかった。