第6章 【ヒョウヘン】
彼が私をあの歪んだ笑顔で見下ろしている。
慌てて彼から逃れようと、身体を起こそうとしたけれど、ガッチリと押さえつけられたその手はピクリとも動かなくて……
「やべー、すんげー、興奮する~」
そう言って菊丸くんが私の目の前でニヤリと笑う。
「……や、やめて……お願い……」
震える声でそう彼に懇願する。
頬を伝って涙が零れ落ちる。
恐怖から身体が硬直し、大声を出すことも出来ない。
助けて……そう呟くのが精一杯の私が見たものは、ますます顔を歪めて笑う、楽しそうな彼だった。
「オレってさ、そういう顔されると、逆にメチャクチャにしたくなっちゃうんだよねー」
そう言って菊丸くんはゆっくりと私との距離を縮めてくる。
「小宮山ってさ……オレのこと好きだよね?」
!!
私の耳元に顔を寄せた菊丸くんがそう囁く。
心臓が直接鷲掴みにされたようにビクンと跳ねる。
カーッと頬が一気に熱くなり、そんなこと……!そうその言葉を否定する。
「だって、いーっつもオレのこと見てたじゃん?読んでる本に隠れてさ」
オレ、なんとなく自分に気がある娘って分かっちゃうんだよね~、そう言って彼は笑う。
気付かれてた……!
ずっと心の中にしまってきたその想いも行動も、この歪んだ笑顔に全部見抜かれていたなんて……
「ち、違うっ……!」
そう慌てて否定する私を見下ろしながら、菊丸くんは、ふーん?と口角を上げて笑う。
それからまるでわざとのように、ゆっくりと時間をかけながら、私の唇に自分のそれを重ねた。