第31章 【シンユウ】
「あの時、私、言ったじゃない?璃音の大切なもの、全部奪ってあげるって……!」
そう言ってナオちゃんは床に散らばる私の髪の毛を足で踏みつけた。
それから涙を流して崩れ落ちる私と視線を同じにすると、自分のブラウスのボタンをゆっくりと外して、コレ、なーんだ?そう言って私に胸元を晒した。
そこには沢山のうっ血痕があって、もうそれだけで彼女の言いたいことは全て理解できて、ああ、そうなんだ……って心が空っぽになっていくのがわかった。
「ほら、私達、大好きな璃音に裏切られて、傷ついたもの同士だから、慰め合ううちにねー?」
香月くん、言ってたよ、璃音は小学生みたいなキスしかさせてくれなかったって、そう続けるナオちゃんの言葉をどこか遠くに聞きながら、私はフラフラとそのトイレから立ち去った。
身体中に暴力を受けて、髪の毛もザクザクに切られて、放心状態で歩くずぶ濡れの私を、みんなが振り返って見ていた。
楽しそうに笑う人、同情しつつも自分じゃないことにほっとする人、面倒はごめんとばかりに見て見ぬ振りをする人……
チラリと視線を上げるとそんな生徒達の中に、目を見開いて私をみる香月くんの姿が見えた。
香月くんは私と目が合うと、気まずそうに目を伏せて、それから生徒達の向こうに消えて見えなくなった。
「……ふふ……ふふふっ……あはっ、あははははっ!」
まあ、声をかけられても困るし……そう思ったら可笑しくて、私は自然と笑いがこみ上げてきた。
泣きながら大笑いする私を遠巻きに眺める生徒達は、みんな私と目があうと慌てて走り去っていった。
次の日から私は学校に行くのをやめた。
実際問題、身体全体が悲鳴を上げていける状態じゃなかったのもあるけれど、それ以上に心の痛みの方が酷かった。
最初は被害届を出そうとしたお母さんも、私の様子にそれを諦めた。
ナオちゃんや学校と戦えるほど私は強くなかった。
ただそっとしておいて欲しかった。
もう絶対誰も信じない……もう絶対誰にも心なんか開かない……そう何度も繰り返して自分自身に言い聞かせた。