第31章 【シンユウ】
目の前が真っ白になって、息も出来なくて、お腹を抱えてうずくまると、それを合図にしたかのように次々と拳や蹴りを浴びせられた。
助けて……誰か……香月くん……っ!
声にならない声で必死に叫んだ。
痛くて苦しくて、怖くて悲しくて、すぐに助けにきてほしかった。
来るはずなんかないのに、犯人にされたあの日から、香月くんと私はもうなんの関係もなくなってしまったのに、それでも無意識のうちに彼に助けを求めてた。
でも当然だけど香月くんが助けに来るはずもなくて、ただひたすら身体を丸めて彼女達の暴力に耐えながら、じっと時が過ぎるのを待った。
「もうこのくらいにしとく?気を失われても面倒だし」
どのくらいの時間繰り返される暴力に耐えていたのだろう?
ひたすら我慢する私の耳にそんなナオちゃんの声が聞こえて、これでやっと解放されるとホッとした途端、今度は頭部に激しい痛みが走った。
ああ、髪の毛、つかまれてるんだな、顔を上げられながら、そんな風にぼーっとする頭で思った。
「あーあ、ボロボロだね、キレイな顔が台無し!」
せっかく香月くんが気に入ってくれてたのにねー、そう言ってナオちゃんは歪んだ笑みを浮かべると、璃音の髪、好きだったんだってね、そう言って私の前に銀色に光るハサミを突きつけた。
まさか……?そう思った瞬間、ジャキンと鈍い音が聞こえて、目の前に長い髪の毛の束がバサッと落ちた。
何度も繰り返すそれを信じられない気持ちで見つめていた。
私の髪……香月くんがキレイだねって撫でてくれた……大切な思い出だったのに……
ひんやりとする首もとで我に返り、床に散らばった髪の毛を震える手で拾い上げると、次から次と涙があふれた。
そんな私に、カットの次はシャンプーねー、そう言って誰かがバケツで水をかけて、それからみんなの笑い声がトイレに響いた。