第31章 【シンユウ】
「ごめんね!璃音!私、気付いてあげれなくて本当にごめんね!!」
突然、そう声を上げたナオちゃんは、私の身体を抱きしめた。
何が起こったのか分からず、目を見開くと、ドアのところに立つ香月くんの姿が見えた。
「香月くん……璃音が今、打ち明けてくれたの……ハッキングしたのは自分だって……!」
ナオチャン……?
「香月くんに釣り合う成績をキープしたかったって……!でももうこれ以上隠しておくのは辛いって……!」
イッタイ、ナニヲイッテイルノ……?
そう放心状態で立ち尽くす私の耳元で、ナオちゃんはそっと囁いた。
「璃音の大切なもの、全部奪ってあげるから……!」
何も言えない私の様子を、目を見開いて香月くんが見ていた。
他の生徒達も騒ぎはじめて、そのうち、騒ぎを聞きつけた先生が飛んできて、私の腕を引いて職員室へと連れて行った。
沢山の生徒達の間を引きずられるように連れて行かれながら、そっと振り返って見てみると、私を複雑な表情で見ている香月くんと、その彼の胸で泣き崩れるナオちゃんの歪んだ笑みがハッキリと見えた。
職員室に連れて行かれると、沢山の先生方に囲まれて、ハッキングのことを色々問いただされた。
だけど、先生の声はなにも聞こえていなかった。
ただ、ずっとナオちゃんの言葉だけが頭の中で繰り返していた。
親友じゃなかった……友達ですらなかった……
そう思いこんでいたのは私だけだった……
香月くん……私のこと……本当に犯人だと思ったの……?
泣き崩れるナオちゃんの両肩を抱いて、複雑な表情で私を見る彼の目は、私の無実なんて一切考えていないようだった。
なにも語らずに、どうして……?そうブツブツ繰り返す私を、暫くしてからお母さんが迎えに来た。
先生から詳しい事情をきいたお母さんは、璃音はそんなこと絶対しません!そう言って抗議してくれた。
その日は、強引にお母さんが連れ帰ってくれた。
そのまま夏休みまでの数日、私は学校に行けず家でお母さんと過ごした。
仕事を休んで寄り添ってくれたお母さんの優しさが暖かかった。