第31章 【シンユウ】
「そんなことないよ!璃音はただ自分の気持ちを言葉にするのが苦手なだけなんだよ!」
震える身体を抱きしめる私の耳に聞こえてきたのは、そんなナオちゃんの声だった。
目を見開いてドアの先にいるであろう彼女の顔を想像した。
え……?そんな風に戸惑うクラスメイトたちに、璃音、凄くいい子だよ!そうナオちゃんはもう一度明るい声で私を庇ってくれた。
「あら、小宮山さん、もう下校時刻よ?また図書室に行ってたの?」
そう突然声をかけられて、慌てて振り向くと、そこには担任の先生が立っていた。
先生はそのままガラッと教室のドアを開けると、中にいるナオちゃん達に、ほらほら、あなた達も早く帰りなさい!そう声をかけて、窓の鍵を確認し、それから隣の教室へと移動して行った。
「小宮山さん、もしかして今の話、聞いてた……?」
先生がいなくなると、そうみんなが気まずそうに顔を見合わせて言うから、なんて言っていいか分からずに黙って俯くと、もう行こう!そう言ってみんなが私の横を走りさった。
教室に残ったナオちゃんに、庇ってくれてありがとうって言いたかったけど、やっぱりうまく言葉が出てこなくて、そんな自分が嫌で涙がにじんだ。
「ほらほら、顔、また硬くなってる!」
そんな私に歩み寄ったナオちゃんは、そう言って人差し指で私の頬を引っ張って、口角をにいーっと上げさせた。
「璃音はうまく話せない分、尚更笑顔は大切だよ!ほら、笑顔の練習しよう?」
そう笑いかけるナオちゃんの優しさが嬉しくて涙が溢れると、彼女はそんな私の涙をハンカチでゴシゴシ拭いて、出すのは涙じゃなくて笑顔!そう言って笑った。
そんなナオちゃんの笑顔につられるように私も自然に笑顔になって、ほら、出来たー!そう言って彼女が私の身体を抱きしめた。
それは私が家族の前以外で見せた、初めての笑顔だった。