第31章 【シンユウ】
幼い頃から人見知りで、自分の気持ちを言葉に表すのが苦手な子だった。
言いたいことがあっても、どのタイミングで話したらいいのか分からずに、なんでも自己完結する子だった。
当然友達なんて出来なくて、いつもひとりで本ばかり読んでいて、その中に広がる世界に思いを馳せては、夢ばかり見ている子だった。
そんな私だから自然と勉強は好きで、知識が増えると嬉しくて、難しい問題が解けるとワクワクして、小学校の先生の薦めもあって中学は地元じゃ一番偏差値の高い大学附属中を受験して問題なく合格した。
だけど中学生になっても人見知りは相変わらずで、やっぱり誰にも話しかけることは出来なくて、せっかく話しかけてくれる人がいても、うまく言葉が出てこない私に、だんだん声をかける人はいなくなった。
でも小さい頃からずっとそうだったから、私にとってそれが普通で、特になにも感じずに毎日を淡々と送っていた。
「あ、それ、私も読んだよー!面白いよね♪」
二年生のある日、放課後に図書室で本を読んでいると、クラスメイトの水島さんがそう声をかけてきた。
話しかけられたことに驚いて、なんて返事をして良いか分からなくて戸惑っていると、小宮山さんって読書家だよねー、なんて彼女は人懐っこい笑顔で笑いかけた。
あの……?そう戸惑っていると、あ、ごめんね、そう言って水島さんは気まずそうに立ち去ったから、いつものことと思ってまた本に視線を戻す。
「この本は読んだ?コレも面白いよ!」
程なくして一冊の本を手に戻ってきた水島さんの笑顔に私は目を見開いた。
だって今までこんな私に、二度も話しかけて、しかも本を勧めてくれる人なんかいなかったから。
返事しなくちゃって思って、でもやっぱりうまく言葉が出てこなくて、無言でコクンと頷くと、もう読んでたかー!そう残念そうな声を上げて彼女はまた本棚へと移動して、んじゃこっちは?そう別の本を持ってきた。
水島さんの持ってくる本は、すでに全部読んでいるもので、でも彼女はその度に嫌な顔せず、またダメだったかー!そう言って笑った。