第31章 【シンユウ】
イヤ……やめて……
どうしてそんなこと言うの……?
お願い……嘘だって言って……
全部、嘘だって……冗談だよって……
……お願い……
『璃音の大切なもの、全部奪ってあげるから……!』
ハッとして目を覚ます。
心臓はバクバクして、身体中からじとっと嫌な汗が滲んでいる。
目からは大量の涙が溢れ、息苦しさから大きく肩で息をする。
久しぶりに嫌な夢、みちゃったな……
そう涙を拭って起き上がると、もう一度耳元で目覚める直前のセリフがはっきりと聞こえてきて、やめてっ!そう慌てて耳を両手で覆う。
そっと本棚に視線を向ける。
本棚の隅にひっそりと置かれた中学の卒業アルバム。
忘れたくて、もう二度と思い出したくなくて、すぐに封印したあの頃の私。
そっと手を伸ばして本棚から取り出そうとして、触れる直前で慌てて引っ込める。
手元に届くと直ぐに、自分の顔をすべてマジックで塗りつぶした。
本当は捨ててしまいたかったけれど、両親が高いアルバム代を出してくれたと思うと捨てれなくて、小学校のアルバムの隣に並べて本棚の隅に立てかけた。
捨てていいのよ?そう言うお母さんに心配をかけたくなくて、いい思い出になる日が来るから、そう言って無理に笑って平気な顔をした。
いい思い出になんか、一生、なるはずないのに……ふーっとため息をついて首を横に振る。
時計を確認すると、まだ明け方の時間をさしている。
ゆっくり立ち上がって窓を開け放つと、しらみ始めた空にぼんやりと消えかけの白い月と、その近くに寄り添う儚い星が一つみえた。
「第一、学校でもちーっとも笑わないでさ、友達1人もいないなんて、小宮山、どっかおかしいんじゃないの?」
昨日、英二くんから私に浴びせられたその言葉。
また思い出してはズキッと胸に鈍い痛みを走らせる。
その一言が私にあんな夢を見させたのかな……そう思って小さくため息を落とす。
「英二くん、本当は私、友達いたし、1人だけ、親友も、いたんだよ……?」
そうゆっくり呟くと、またポロリと涙が溢れた。