第30章 【ソレゾレノヨル】
『もしもし、小宮山さん、今、電話、大丈夫?』
そう丁寧に問いかける不二くんの声はどこか焦っているようで、いつもと違う彼の様子に、何かあったんですか……?そう思わず私も声を潜める。
もしかしてまた英二くんが……?なんて不安になって、心臓がバクバクして、慌ててそれをギュッとおさえると、大丈夫、英二のことじゃないよ?なんて不二くんが言うから、顔を見ずとも分かるなんて、もはやエスパー?そう思って首をすくめる。
「それじゃ、どうしたんですか……?」
『それが、公園でのことなんだけど……』
英二から連絡、来てない?そう言い難そうに言葉を選ぶ不二くんに、いえ、特には……って答えながら、公園でのこと……?そう彼の言葉の先を考える。
公園って、英二くんの家から帰る途中でのことだよね……?
それって、私と不二くんが2人でいたときのことで、しかも英二くんから連絡が来ていない?ってことは……
それに、こんなご時世だからもしかして……?
「写真、拡散しているんですね……?」
一度頭の中で考えがまとまったら、もうそうとしか思えなくて、そう確信しながら不二くんに問いかけると、うん、ゴメンね、油断したよ……そう言って彼は申し訳なそうに謝った。
やっぱり、そう思ってすーっと大きく息を吸うと、不二くんが謝る必要ありませんよ、そう言って心を落ち着かせる。
『でも、そのせいで小宮山さんには辛い思いをさせるかもしれない……』
そうますます申し訳無さそうに言う不二くんに、大丈夫です、私、慣れてますから、そう勤めて明るく答える。
『……キミのことは必ず僕が守るよ』
そんな私に不二くんが力強い口調で言うから、学園の王子様にそんなこと言ってもらえるなんて凄い贅沢ですね、なんて苦笑いすると、少し沈黙の後、僕はたったひとりの王子様でありたいと願うよ、なんて不二くんは呟いた。
その少し寂しげな声に、もしかして不二くん、好きな人がいるのかな……?なんて思って、もしそうなら不二くんの恋が叶いますように、そうこっそり願った。