第30章 【ソレゾレノヨル】
「小宮山さん、すげー、頭いいよ?……すげー、頭よくて、そんで……すげー、バカ……」
思わずそう言って目を伏せると、とーちゃんは無言で部屋の隅へと移動する。
そんなとーちゃんの行動を不思議に思って見ていると、さっきオレが放り投げてゴミ箱からこぼれ落ちた小宮山のレポート用紙を拾い上げるから、ヤバッて内心冷や汗をかく。
せっかくお見舞いに来てくれた子がとってくれたノートを、そんな風に捨てるのは絶対印象悪くて、そんな事を息子であるオレがしたなんて親に知られたくなくて、でも今更どうしようもなくて、内心焦りながら恐る恐るとーちゃんの顔色を伺う。
するとレポート用紙を広げてその内容を確認したとーちゃんは、そんな焦るオレにチラッと視線を向けたから慌てて目をそらすと、なんも言わずにそれを机の上で広げて、それから手の平を使ってシワを伸ばしはじめる。
「……英二、怒りの矛先は間違わないようにな……」
そう言ってとーちゃんは伸ばしたレポート用紙を机の上に置くと、流石、学年首席のノートだな、そう言って出口まで移動すると、大事にしなさい、そうそっと呟いて、部屋から出て行った。
タバコん時もそうだったけど、本当にオレが悪いことをしたときのとーちゃんの説教は、静かで多くを語らずに、いつもドンっと痛い胸の奥をついてくる。
いっそ、なんてことするんだ!って、ガキの頃にさんざん怒られたように、思いっきり怒鳴ってくれりゃいいのにさ……ふーっと大きなため息をつくと、ワシャワシャと髪をかき乱す。
怒りの矛先を間違うなっていったって、んなことオレだってちゃんと分かってるって……
それでも、分かっていても自分ではこの次から次と沸き起こるイライラを、どうしたらいいか分かんないんだよ……
そっと目を伏せたまま、痛む胸をおさえる拳に力を込める。
ギュッと下唇を強く噛んだら、ほんのり鉄の味がした。