第30章 【ソレゾレノヨル】
「まさか、お前、家族に遠慮してるんじゃないだろうな?」
そう図星をつかれてギクッと身体を震わせると、そんなオレの動揺を見逃さなかったとーちゃんは、ふーっと深いため息をついた。
「お前は金の心配なんかしなくていいから、ちゃんと大学部に進学しなさい」
そう強い口調で言うとーちゃんに、そんなんじゃないって、そう、慌てて苦笑いをしてその言葉を否定する。
「オレ、バカだしさ、もうこれ以上勉強なんかしたくないんだよね~」
そう後頭部で腕を組んで、ニイッと笑うと、そうか、そう一言だけ言ったとーちゃんは、もう一度ため息ついて、それから黙って目を伏せた。
とーちゃん、普段とぼけてるくせに、新聞記者だけあって結構鋭いんだよなー……
そういたたまれない気持ちで沈黙に耐える。
時計の音が妙に大きく聞こえ、こんな話題なら、早くでてってくんないかな、なんて思って足元を見続ける。
「そういえば、今日来たお嬢さんはずいぶんキレイな人なんだってな?」
学年首席で頭もいいらしいじゃないか、母さん達が盛り上がってたぞ、そうなぜか小宮山の話題を始めたとーちゃんに、へ?あ、うん、そう戸惑いながら返事をする。
何で、突然小宮山の話題?だから嫌なんだよな、なんて内心ため息をつきながら、いっておくけど、ほんと、つき合ってないよん?そう苦笑いをする。
そんなオレに、わかった、わかった、そう本当に分かってんのか怪しい返事で頬を緩めたとーちゃんは、どんな人なんだ?なんて聞いてくるから、どんなって……そう小宮山の事を思い出す。
だけど浮かんでくるのはオレが泣かせた泣き顔ばかりで、ズキンと痛む胸をギュッとおさえた。