第30章 【ソレゾレノヨル】
コンコン
ドアをノックする音がして、かーちゃんかねーちゃんのどっちかかな?そう思って起き上がり、ほいほーいっと返事をする。
予想に反して、ちょっといいか?そう言って入ってきたのはとーちゃんで、とーちゃんがオレの部屋にくんのなんて滅多にないことで、とーちゃんなんて珍しいじゃん?どったの?そう言ってニイッと笑顔を作る。
「今日、母さんが先生に確認されたそうだが、お前、進路調査表に就職と書いたらしいな?」
真面目な顔で入ってきたそのとーちゃんの様子に、また病院に行けって言われるのかと思って身構えてたら違ってて、しかも全く予想していなかったその話題に、思わず顔をひきつらせる。
先生、何時の間にかーちゃんに確認したんだよ~?ってオレが保健室で寝ている間に決まってるか……
本当、先生も余計なことすんなよなーって思いながら目を伏せて、あー……うん、そう歯切れの悪い返事をする。
「どうして大学部に進学しないんだ?」
「……どうしてって……」
そうオレを真っ直ぐ見つめて言うとーちゃんの視線が痛くて、そんなとーちゃんの顔が見れなくて、とっさのことにうまい言い訳も思いつかなくて、言葉に詰まって何も言えなくなる。
兄弟5人もいるんだし、大学に行くとなると相当な負担になる。
下のねーちゃんの成人式だってあるし、ねーちゃん達が結婚して嫁に行くとなると、かなりの金が必要じゃん?
もちろん、出来ることなら不二達と一緒に進学したいけどさ、そんでも家族にこれ以上迷惑かけるわけにいかねーもん。
早く就職して、誰にも頼らずに自分の力だけで生きていきたいから……なーんて流石に言えないよなぁ……
なんて答えてよいか分からず、黙って目を伏せた。