第30章 【ソレゾレノヨル】
「んじゃ、にーちゃん、ほんとに今日はわざわざあんがとね」
久々の家族全員での団欒を終えて、一人暮らしをしているにーちゃんがマンションへ帰るのを見送ると、そんじゃ、部屋に行ってちょっと休むね、そう言って自室へ戻る。
部屋へ入るとベッドにガバッと横になり天井を眺める。
ふーっとため息をついて軽く握った拳の甲で目をかくすと、そっと小宮山の顔を思い出す。
途端に襲う胸の痛みと沸き起こるイライラの、正反対の二つの感情に心が乱されて、チッと舌打ちをしては、あーっ、もう!そう声を上げる。
不二と小宮山が帰ってから、もう何度も同じ事の繰り返し。
もう一度大きくため息をつくと、ゆっくりと起き上がり大五郎をギュッと抱きしめる。
さんざん家族に詮索されて否定すんのにも疲れて、もう最後の方なんてドウニデモシテ状態で、小宮山がうちに来るからこんなことになんじゃん!って腹立って、それから涙をこらえて必死に笑う小宮山の顔に、ますますイライラを募らせる。
はぁ……なんでオレ、小宮山に大五郎貸してやる気になったんだろ……?
家族がオレと小宮山がつき合ってると勘違いした決定打は、確実に大五郎のことがあったからで、んなことしなきゃただのクラスメイトで問題なかったのにさ。
ふと目に留まったのは、テーブルの上に置きっぱなしになっている、小宮山が持ってきた授業ノートのレポート用紙。
たくっ、余計なことすんなよな、そうもう一度舌打ちすると、急いで立ち上がり、そのレポート用紙をグシャッと握り潰して、そのまま部屋の隅のゴミ箱へと放る。
弧を描いて飛んでいったそれは、ゴンッと鈍い音をたててゴミ箱の縁にぶつかり、それを大きく揺らすと、コロンと外に転げ落ちた。
チッ、こんな単純なことすら出来なくなってんのかよ……そんな小宮山に関係ないことですら心が乱されて、もう何度目かもわからない大きなため息をつく。
わざわざそれをゴミ箱に入れ直す気にもなんなくて、そのままもう一度ベッドへと仰向けになった。